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臨床公開相談(無料)

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    精神科医熊木徹夫の「臨床公開相談」
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2004・09発行  第1号 発行

タイトル『トンネルに入りゆく恐怖』

※このメルマガは、皆様からの臨床疑問に精神科医熊木徹夫が、直接お答えするものです。熊木に直接、臨床疑問を持ち掛けたい方、本メルマガのバックナンバーをご覧になりたい方は、以下にアクセスしてください。
http://www.dr-kumaki.sakura.ne.jp/index.html
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※すべてはここから始まった!
これまで大勢の患者さんと接してきた精神科医が、
臨床をおこなってゆく中で常々温めてきたこと、
すなわち精神科臨床の、ひいては人間を知るということの<普遍>へと繋がるものについて論じた本:

『精神科医になる 〜患者を<わかる>ということ〜』

       熊木徹夫(中公新書)700円(税別)

ここで提起された問題は、精神科のみならず各界に、静かだが確かな影響を及ぼしつつあります。
この一冊、是非あなたも手にとってみてください。

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http://www.dr-kumaki.sakura.ne.jp/index.html
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Q:長距離トラックの運転手で、毎年5万km以上走行してきました。
生活は不規則で、20時間眠らずぶっとおしで走ったり、3時間だけ車中で仮眠をとったりなんてことを繰り返してきました。
ある日、高速道路を走っていて、長いトンネルの入り口にさしかかったときのことです。急に心臓がバクバクしだして、とても息苦しくてしょうがなくなり、グワンと頭が揺さぶられるように感じました。
一瞬死ぬんではないかという恐怖に襲われ、フラフラ徐行の末、トンネルをようやく脱出。
救急車を呼び、病院で体の検査を受けましたが、どれにも異常が出ませんでした。
そして、精神科に行ったほうがいいとアドバイスされました。
以来、トンネルに入ろうとすると、同じような発作にみまわれます。
もともと車の運転は好きでしたが、この一件から運転に自信を失ってしまいました。

A:あなたの経験したこの発作には、名前がついています。
「パニック発作」と呼ばれています。
このような発作を引き起こす病気を総称して、「パニック障害」といいます。

普段から体にむちうち、がんばらせすぎている人におきやすいものです。
交感神経(戦闘体制のとき、動物が働かせる神経)が亢進してしまった状態、すなわち、絶えず体が過緊張の状態になっていて、その結果体が悲鳴をあげてしまったのだといえます。

一連の発作の経過には、共通した特徴があります。
漠然とした不安感・緊張状態がまずあり、そこから急に激しい動悸・胸苦しさをおぼえるところから始まります。
その後、呼吸が荒くなることが多いです。
これは過呼吸発作といって、酸素が不足している訳ではないのに不安感から息苦しく感じるため、不必要なまでに酸素を取り込んでしまう現象です。
引き続いて、グルグル目が回るようなめまい(グワンと頭が揺さぶられるように感じたり、いろいろなタイプがあります)・吐き気(実際、吐いてしまうこともあります)・ズキンズキンとくる激しい頭痛・冷や汗・手足のしびれ・震え・腹痛など様々な身体症状が起こってきます。
そして、頭が真っ白になって座りこんだり、ひどいときは倒れこんでしまったり。
死にそうな恐怖が襲ってくることもしばしばです。

あまりに激しい自覚症状があるので、救急車で受診されることも多いですが、身体の異常はほとんどの場合みつかりません(心電図・血液検査などで)。
ただ「呼吸性アルカローシス(過呼吸で酸素を取り込みすぎて、血液がアルカリ性を示すようになること)」の状態が特徴的で、これが診断のカギになることもあります。

ひとたびこのような発作を経験すると、いつまた発作が起こるのかと考えて不安になります(これを「予期不安」と呼んでいます)。
そして、これがまた次の発作を呼ぶといった悪循環に陥ることになります。
さらに自分でこの事態を克服しようとすればするほど、自意識過剰になって、泥沼にはまってゆくことが非常に多いのです。

そのため、この疾患ではやはり、あなたが救急科でアドバイスされたとおり精神科を受診された方がいいと思います。

幸い現在では、標準的な治療法が確立しています。
発作が起こったときには、アルプラゾラムがよく効きます。
(特に発作が起こる直前に服用すると、絶大な効果があります。
普段から、おまもりのように持ち歩いて、いざとなったら、ポクッと唾でのみこんでしまうといいです。
一般にどの医師も唾でのめなんていいませんが、水もないところで発作が起きたらこうするしかないでしょう。
幸いこの薬、胃を荒らすような薬ではありませんから)
そして、予期不安をほどくのには、パロキセチンの連用が効果的です。

薬なんかに頼りたくないという方もおられるかもしれません。
しかし仮に精神療法(認知行動療法など)などで治すにしても、薬物療法を併用しないのは合理的なやり方ではないと思います。

私はパニック障害の患者さんに、よく次のような例え話をします。
あなたは、初めて自転車にのる子供だとします。
いきなり自転車にまたがっても、当然のことながらこけてしまうでしょう。
そこでお父さんなんかが後ろ支えしてくれる訳です。
ゆっくりこわごわと自転車をこぎだすあなた。
フラフラしながら少し前に進みますが、お父さんが手を離すと、パタリとこけてしまいます。
このようなことが繰り返されてゆきます。
あるとき、スッーと走り出す瞬間が訪れます。
お父さんはそっと手を離すのですが、あなたはその瞬間に気づきません。
ふと後ろを振り返ったとき、ひとりで走っていることに気づくのです。
その時の驚き、そして同時に襲われる不安の感情といったら!
でも、大きな喜びの感情もじんわり湧いてきます。
しばらくすると、かつて誰かの助けを借りておそるおそる自転車にまたがっていたのが嘘のように、自在に走り回れるようになります。

この中に登場するお父さんとはすなわち、薬であり、それを処方する医師であり、今あなたが読んでいる私の言葉です。

あなたが自在に走り回れるとき、すなわちパニック発作から解放されるときは必ずやってきます。
それまで、薬やあなたの主治医におおいにすがっていいのです。
自分の体の対する自信が回復すれば、これらから自然に離れてゆけるものです。

ここで話した例え話をこころにイメージすれば、今自分はどの段階にきているか理解できるから、不安も軽減されるでしょう。
参考にしていただきたいと思います。

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